NHK制作統括プロデューサーが語る「ドラマ制作の舞台裏」

連続テレビ小説や大河ドラマをはじめ、多くの作品を世に送り出しているNHKのドラマは、どのようにして生み出されているのか…? 練馬と縁の深い作品も手がけてきた、NHKの制作統括プロデューサーの磯智明さんにお話を伺いました。

※月刊Kacce2025年9月号掲載当時のものです。内容が変更になっている場合があります。

磯 智明(いそ ともあき)さん
1990年NHK入局。ドラマ部の制作統括プロデューサー。「なつぞら」(朝ドラ)、「どうする家康」「平清盛」(大河ドラマ)など数多くの作品を制作。子どもの頃はとしまえんによく行き、若い頃は桜台に住んでいたこともあり、練馬は「懐かしい場所」だそう。

ドラマを作る人たち

制作統括プロデューサーとは、どんな仕事なのでしょうか?

「ドラマの全ての責任を負う人です。脚本家を決め、出演者をキャスティングし、ロケかスタジオ撮影か判断し、どのシーンをいつ撮影してどの役者さんが出るかといった全体スケジュールを作ります。予算管理や品質管理もやります」と磯さん。これ、全部1人でこなすんですか⁉

「さすがに大河ドラマの規模になると、制作統括の下にさらにプロデューサーが3人ほど付いて、予算やスケジュール管理、広報、現場担当というように担当を細分化しています」

ちなみに、ディレクターという仕事もあり、おおまかに分けると、企画から台本を作るまでがプロデューサー、台本を渡されて映像化するのがディレクターの仕事。編集段階からは両者の共同作業になるそうです。

撮影の実態とは 

NHKの2大ドラマ、連続テレビ小説(以下、朝ドラ)と大河ドラマの規模感をまとめてみると(左図)、あらためてスケールの大きさがよくわかります。さらに驚きなのは撮影にかかる手間と時間‼ リハーサルと確認作業を繰り返し、本番ではアングルや距離を変えて同じシーンを何回も撮ります。

「スタジオ撮影の場合、朝ドラは1日で15分弱のシーンが撮れますが、大河ドラマはどんなに頑張っても7〜8分程度。ロケで合戦シーンを丸1日撮影しても、実際の映像は1分に満たないことも。時代ものは、出演者全員の衣装やかつら、メイクなど準備に時間がかかり、俳優陣やスタッフの数も桁違いになります」

ちなみに、「どうする家康」で主演の松本潤さんが晩年の徳川家康の特殊メイクをするのに、毎回3時間かかったそうです。

朝ドラ大河ドラマ
放送期間半年1年
企画/リサーチ/台本開発2年3〜4年
撮影期間1年1年8か月
総スタッフ数200〜300人500〜600人

徹底的な時代考証
「美術や衣装、小道具の細部に至るまで専門家が徹底的に考証を行い、リアルを追及するのがNHKのこだわり。正確に伝えるという使命感に加え、視聴者からの指摘やツッコミが増えているためです。背景にチラッと映る描きかけの絵、市場の通行人の性別や職業の検証など…1つひとつ膨大な手間と時間がかかっているんです」

進化する朝ドラ

制作統括プロデューサーとして、朝ドラ100作目の「なつぞら」(2019年)を制作した磯さん。広瀬すずさん演じる主人公がアニメーターを目指して働いていた会社は大泉にある「東映アニメーション」をモデルにしていたので、当時の話を聞くため大泉に足を運んだそうです。

「子どもの頃アニメが好きだったのでアニメーションの黎明期を調べてみたら、多くの女性が関わっていたことがわかりました。そんな女性を主人公に、“何かを始めた人の物語”を描きたいと思ったんです」

かつての朝ドラは、家族で朝食を食べながら見るホームドラマが主流でした。2010年の「ゲゲゲの女房」から放送時間を8時15分から8時に早めたこと、家庭の生活様式が変わったことから、よりドラマ性が求められるようになったと言います。

「この時に朝ドラを一新したんです。複数のテーマを設定して、激動する時代やドラマチックなストーリー展開を表現するようになりました。例えば『なつぞら』なら、アニメーターの話だけでなく、戦争孤児や北海道の開拓といったテーマも絡めています。また、主人公のほかに2番手、3番手を設定し、人間関係を多角的に描くことで、奥行きのあるドラマを目指しました」
こんな視点で朝ドラを見たらさらに面白くなりそうですね。

初めての現場の仕事は…
「ドラマのロケ現場で助監督としての初仕事は“セミ退治”でした。真夏に冬のシーンを撮影するため、トランシーバーと水鉄砲を持たされて撮影現場から1番遠い森の中へ。『本番!』の声がかかったら、セミの鳴き声が入らないように朝から夕方までひたすら水鉄砲でセミを追い払うんです。今はデジタル処理で消せるようになりましたけどね(笑)」

ドラマ作りの魅力

NHK入局以来ドラマをずっと作り続けている磯さんですが、意外にも「100%納得のいく作品はまだない」とのこと。

「課題があるから、また次を作ろうと思える。ぼくらの仕事は時代と共に変わり続けるので、正解やゴールがない。だからこそ面白い」

ドラマ作りで特に大切にしているのは“オリジナリティ”だと言います。俳優の起用にしてもテーマにしても、「あの作品が始まりだったよね」と言われるような、今までにないものを作りたいと意気込みを語ってくれました。

「現場で俳優を育てていくことも重要な仕事です。時代劇であれば、所作や立ち居振る舞い、刀の抜き方などの稽古は必須。助監督時代はこうした稽古にも立ち会うので、一緒に時間を共有した俳優さんが主演を張るまでに成長した時は、本当にうれしいですね」

月刊Kacce500号記念 特別講演会「NHKプロデューサーが語るドラマ制作の舞台裏」
●日時:2025年11月9日(日)14:00〜 ●会場:ココネリホール(東京都練馬区練馬1-17-1 Cocconeri3F)
●参加費:1,000円 ※申込時カード決済 ●定員:160名(申込順)
ドラマの企画立案から撮影現場の裏側まで特別なエピソード満載の講演会と、ドラマ作りを体感できる貴重なワークショップの2部構成です
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